プロジェクト・ポートフォリオマネジメント(PPM)をどう実際の組織に浸透させていくか?
経営層がPPMの重要性を認識し、トップダウン的にアプローチしていくことが効果的ですが、経営層がPPMの考え方を理解していない場合にはどのようなアプローチがあるでしょうか? 今回の記事では、プロジェクトマネージャー(PM)の立場から実践できるアプローチについて記載しております。ご参考にしていただければ幸いです。
はじめに
プロジェクト・ポートフォリオマネジメント(PPM)に関する講演やセミナーを実施すると、プロジェクトマネジャー(PM)の方々から、次のようなご質問をいただくことがよくあります。
「PPMによって、経営戦略に整合したプロジェクトを選択し、整合していないプロジェクトは見直しや中止を判断することの重要性は理解できます。しかし、経営層や部門長がPPMを理解していない場合、PMとしてどうすればよいのでしょうか?」
PPMはどちらかというと企業・組織全体に関わるもので、経営レベル(経営層や部門長)が主体となって取り組むマネジメントです。しかし、経営層がPPMの考え方を十分に認識していない組織もあります。欧米ではすでに取り入れている企業が多くありますが、日本では未だ十分に浸透していない状況だと認識しています。
このような状況で、PMには何ができるのでしょうか。私は、次の3つの取り組みが重要だと考えています。

1.プロジェクトと経営戦略のつながりを明確にする
まず重要なのは、担当するプロジェクトが企業・組織の経営戦略にどのように貢献するのかを明確にすることです。
プロジェクトの目標を設定する際には、成果物の完成や納期・予算の達成だけでなく、プロジェクトが生み出す価値に着目する必要があります。
例えば、売上拡大、営業利益の向上、コスト削減、顧客満足度の向上など、経営戦略や経営指標への貢献を、可能な限り定量的な目標として設定することが重要です。(別の記事でプロジェクトのビジネスケースとは?について記載していますのであわせてご確認ください)
近年、プロジェクトマネジメントにおいても、価値を重視する考え方が一層強まっています。
PMIが発行した最新のPMBOK® 第8版では、「価値へのフォーカス(Focus on Value)」が基本原則の一つとして示されています。また、PMIはプロジェクト成功について、従来の納期・予算・スコープの達成だけでなく、「投入した労力と費用に見合う価値をもたらすこと」を重視する考え方を示しています。
このような考え方からも、PMはプロジェクトの実行管理だけでなく、その成果が企業・組織にどのような価値をもたらすのかを意識することが重要です。
その際、PMだけで目標を決めるのではなく、プロジェクトスポンサーや関係部門などのステークホルダーと合意形成を図ることも必要です。
プロジェクトが経営戦略の実現にどのように貢献するのかを明確にすることで、上層部に対して、その重要性や期待される価値を具体的に説明できるようになります。
2.個別のプロジェクト管理では解決できない課題を可視化する
次に重要なのは、プロジェクトを遂行する中で生じる課題を、組織全体の視点から捉えることです。
例えば、次のような問題があります。
- 複数のプロジェクト間で必要な人材やリソースが競合している。
- プロジェクト間の優先順位が明確になっていない。
- 戦略への貢献が不明確なプロジェクトが継続されている。
これらは、個々のPMがプロジェクト管理を改善するだけでは、解決が難しい問題です。
PMBOK® 第8版では、「全体を俯瞰する視点(Adopt a Holistic View)」も基本原則の一つとして示されています。
PMには、担当プロジェクトの内部だけでなく、他のプロジェクトや組織全体との関係、相互の影響などを広い視野で捉えることが求められます。これは、個々のプロジェクトの最適化だけでなく、組織全体の最適化を目指すPPMの考え方にも通じるものです。
PMは、こうした課題を具体的な事実やデータに基づいて可視化し、上層部に伝えることが重要です。
その際、PPMという手法の必要性を説明することよりも、**「組織全体の成果を高めるためには、プロジェクトを横断的に捉え、優先順位や経営資源配分を判断する必要がある」**という経営課題として伝える方が、理解を得やすいと考えます。
3.関係者と連携し、小さな実践から始める
3つ目は、PM一人で問題を抱え込まず、プロジェクトスポンサー、PMO、部門長などの関係者と連携することです。
例えば、部門内で実施しているプロジェクトを一覧化し、それぞれの戦略への貢献度、優先順位、必要なリソースなどを比較・検討する機会を設けることも、一つの方法です。
このような取り組みによって、プロジェクトを個別に管理するだけでは見えてこなかった問題が明らかになり、組織全体として判断することの重要性を認識してもらうきっかけになります。
最初から本格的なPPMの仕組みを導入する必要はありません。身近な課題を起点として、プロジェクトを全体として捉えることの有効性を実感してもらうことが重要です。
ただし、プロジェクトの取捨選択や優先順位、経営資源配分の最終的な意思決定は、PMのレベルではなく、経営層や権限を持つ組織が担うべきものになります。
おわりに
PPMの導入・定着は、経営層が主体となって取り組むべき経営マネジメントの課題であり、PM個人の努力だけで実現できるものではありません。
しかし、PMにも果たせる重要な役割があります。
担当プロジェクトと経営戦略のつながりを明確にし、組織全体の視点から課題を可視化し、関係者と連携して改善を働きかけることです。
こうした取り組みの積み重ねが、上層部にPPMの必要性を認識してもらうきっかけになると考えます。
PMに求められるのは、PPMの導入を自ら担うことではなく、経営層が適切な意思決定を行えるよう、必要な情報を提供し、働きかけることです。
それが、PMの立場からPPMの浸透に貢献する第一歩になるのではないでしょうか。
参考資料
- Project Management Institute(PMI), A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 2025.
- Project Management Institute(PMI), Maximizing Project Success, 2024.
以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。少しでもご参考にしていただけることがあれば幸いです。
