Project Management Institute(PMI)は、ポートフォリオ、プログラム、プロジェクトマネジメントにおけるAI活用を対象とした新たな標準書「The Standard for Artificial Intelligence in Portfolio, Program, and Project Management」を発行しました。
ANSI規格の発行前のパブリックコメントにおいて、私も微力ながらレビューをさせていただき、嬉しいことにContributorsの一人として名前が掲載されました。


本書は、AIを単なるツールとして使うという内容ではなく、ガバナンス、リスク、価値創出、人による監督・判断を含め、実務にどう落とし込むかの体系的アプローチとして参考になる標準書です。
私の所感をクイックレビューとしてお伝えいたします。
1. 何が新しいのか
最大の特徴と言えるのは、プロジェクトとして「AIをどう活用して運用できるようにするか」という視点で記載されているところでしょうか。AI導入は多くの場合、業務変革、システム実装、データ整備、場合によっては組織の変更等を伴います。そのため、AIの性能だけではなく、誰が意思決定し、どのように説明責任を果たし、どの段階でリスクを評価するかが重要になると思います。このような観点で記載された標準書は私の知る限りでは他にはなく、大変参考になると感じております。
2. 標準書の骨子
本標準は、AIを活用するプロジェクト実務に対して、8つの原則、5つのパフォーマンス領域、ライフサイクルおよびテーラリングの考え方を提示しています。PMIの説明では、人間がAIの出力を確認し判断する「Human-in-the-Loop」を重視していること、倫理・法務・知的財産・監査・契約上の論点を扱うことなどが強調されています。
- AI活用を戦略価値、リスク、ガバナンス、データ品質の観点から整理
- ポートフォリオ、プログラム、プロジェクトの各階層でAIの意思決定支援を位置づけ
- AIの出力をそのまま採用せず、人間による確認、判断、エスカレーションを組み込む
- 倫理、法規制、知的財産、監査可能性、契約責任を実務上の制約として明示
などがあります。
8つの原則
- Strategic Value
- Risk
- Governance and Compliance
- People and Culture
- Ethics and Professional Responsibility
- Stakeholder Engagement
- Optimization and Innovation
- Data Quality
5つのパフォーマンス領域
- Managing Stakeholder Expectations About AI
- Defining the Scope for AI
- Designing AI Architecture With Quality and Reliability
- Executing Strategic AI Goals
- Managing AI Risks and Uncertainties
出典:PMI. The Standard for Artificial Intelligence in Portfolio, Program, and Project Management
3. 実務者にとっての意味
プロジェクトマネジャーやPMOにとって、本標準は、AI導入を「単に導入する、実験的に導入する」ことから「統制された実行」へ移行するための指針になるのものだと思います。データの信頼性、ステークホルダーへの説明、意思決定権限、例外処理、成果物の検証方法を事前に設計することが求められますが、特に重要なのは、AIによる推奨や予測を「判断材料」として扱い、最終的な説明責任を人間と組織が保持するという姿勢です。これは、AI活用が進むほどプロジェクトマネジャーやプロジェクトメンバーの役割が縮小するのではなく、むしろガバナンス、合意形成、価値判断の重要性が高まることを示していると思います。
4. 所感
いくつかの観点において、この標準書に対する私の所感は以下のとおりです。
| 観点 | 所感 |
| 有用性 | AI導入プロジェクトの計画、統制、リスク管理に共通の枠組みを与える点で有用性が高いと感じます。 |
| 実践性 | 原則、パフォーマンス領域、ライフサイクルを結びつけており、PMOやプロジェクトチームで議論しやすい内容です。 |
| 考慮点 | 具体的なツール手順書ではないため、各組織の規程、業界規制、データ管理方針に合わせた、詳細の検討やテーラリングが必要でしょうか。 |
| 読むべき人 | プロジェクトマネジャー、プログラムマネジャー、ポートフォリオマネジャー、PMO、AI導入を推進する業務部門・IT部門のリーダーなど。 |
5. 読む際のチェックポイント
- AIをどの意思決定に使い、どの意思決定には使わないのか。
- AIの出力を誰が確認し、どの基準で承認または却下するのか。
- データ品質、バイアス、セキュリティ、知的財産のリスクをどこで評価するのか。
- プロジェクト憲章、リスク登録簿、ステークホルダーエンゲージメント計画等にAI特有の論点をどう反映するのか。
- AI導入後の効果測定、監査、継続的改善をどのように設計するのか。
まとめ
この新標準書は、AI時代のプロジェクトマネジメントにおいて、テクニカルな導入と組織的な役割や責任を結びつけるための最初の指針になるものと思います。AIを使うこと自体が目的化しやすい現在、本標準は「どの価値を実現するためにAIを使うのか」「どのように責任ある形で届けるのか」を問い直す材料になるように感じます。AIを扱うすべてのプロジェクト専門職にとって、早い段階で目を通しておきたい一冊ではないでしょうか。
ただ今後も時代の流れは早く変化は絶えず発生し状況も変わっていきますので、この標準書も必要に応じアップデートしていくことも必要になるのではと漠然と感じています。
補足:PMIメンバーの方は、PMIのWebサイトからPDF版のダウンロードが可能です。(原文の英語版をお勧めしますが、日本語訳版も同時にリリースされています)https://www.pmi.org/standards/artificial-intelligence
また、ペーパーバッグはUSのアマゾン(Amazon.com)で入手出来ます。輸送費もあって少し値段が高いですが、私はペーパーバック派なもので注文しました。https://a.co/d/0egq8H9k
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
