数年前より「プロジェクトエコノミー」という言葉を耳にする機会が増えています。企業の価値創出が、オペレーションの効率化だけでなく、新規事業、DX、製品刷新、サプライチェーン再編、脱炭素対応といった“期限のある施策やプロジェクトで成果・価値を創出する取り組み”に大きく依存するようになっている、という見立てです。
実際に企業組織では多くのプロジェクトを実行している状況で、プロジェクトがビジネスを牽引していることは言うまでもありません。ただ、プロジェクトエコノミーの実感はあるものの、プロジェクト活動全体が具体的にどのくらいの付加価値を創出しているかを裏づける統計やデータは多くありません。そこでこの記事では、利用可能な公開データをもとに、プロジェクトエコノミーは本当に到来していて進んでいるのかを考えたいと思います。
私はプロジェクトエコノミーは確実に到来していて、そのために企業・組織の変革が必要と認識しており、その裏付けを考える主旨でこの記事を投稿しています。
プロジェクトエコにミーに関しては、以前に投稿した記事をあわせてご参照ください。
実際にプロジェクトエコノミーは起きているのか?
ここでいうプロジェクトエコノミーとは、単に「プロジェクトが多い状態」のみを指すのではありません。むしろ、企業や社会が生み出す売上・利益・付加価値のうち、変化を実装するためのプロジェクト活動に由来する割合が高まっていく現象、と捉えるのが自然です。既存事業を安定運営する力は引き続き重要ですが、成長や変革の源泉が、オペレーションの改善よりも、個別の変革案件の集合へと重心を移している。これがプロジェクトエコノミー論の核心だと言えます。
これを検証するには、少なくとも次の二つの観点が必要でしょうか。
- 第一に、プロジェクトに従事する人の数が本当に増えているのかという点
- 第二に、プロジェクト型の活動が経済全体の付加価値や雇用に占める比重を高めているのかという点
残念ながら、「オペレーション由来の利益・売上」と「プロジェクト由来の利益・売上」を明確に分けた統計やデータは見当たりません。そのため現時点では、雇用・人材需要・プロジェクト型産業のGDP見通しといった周辺指標から、間接的に実態を捉えるほかないと思います。
関連するレポート(データ)など
雇用・人材需要・プロジェクト型産業のGDP見通しといった点で、参照できるのが、Project Management Institute(PMI)の人材ギャップ調査です。
PMIの2017年レポート
このレポートは、11か国・7つのプロジェクト志向産業において、プロジェクトマネジメント指向の雇用が2017年から2027年にかけて33%増加し、2027年までに約8,800万人規模に達すると推計しました。また、人材不足が続けば、同期間に約2,080億米ドルのGDPリスクが生じうるとも試算しています。少なくともこの推計が示しているのは、プロジェクト関連の仕事が一時的な流行ではなく、主要産業で構造的に拡大しているということです。
PMIの2021年レポート
このレポートでは、世界経済が2030年までに2,500万人の新たなプロジェクト専門人材を必要とし、需要を満たすには毎年230万人がプロジェクトマネジメント指向の役割に入っていく必要があるとされています。さらに、プロジェクト型産業の総GDPは2019年の24.7兆米ドルから2030年には34.5兆米ドルへ拡大すると見込まれています。単純比較はできないにせよ、これはプロジェクト型の取り組みが付随的な業務ではなく、経済成長を支える主要な器になりつつあることを示唆する数字だと言えます。
PMIが20205年に公表した見通し
直近では、PMIが2025年に公表した人材見通しで、2035年までに最大3,000万人の追加的なプロジェクト人材が必要になるとされています。世界の労働市場にすでに約4,000万人のプロジェクト専門人材が存在するという前提に立つと、その不足規模は小さくありません。建設、製造、ITサービス、ヘルスケアといった分野で需要が高いことも報告されており、プロジェクト型の仕事が特定業界だけの現象ではなく、インフラ投資、デジタル変革、規制対応、エネルギー転換など複数の大潮流に支えられていることがわかります。
日本においてはどうか
日本においても、PMIが示した見方はそれほど不自然ではないと考えます。人口減少下でオペレーションを人手で維持することが難しくなる一方、企業はDX、基幹システム刷新、工場自動化、サイバーセキュリティ対応など、変革案件を同時並行で回さなければなりません。前述したPMIの2021年レポートは日本を含む地域データを用いており、先進国では高齢化と退職増が供給制約となる一方で、変革需要そのものはむしろ増えるという構図を示しています。つまり日本では、極端な言い方をすると、オペレーションにかける人材は徐々に減り、プロジェクトに投入する人材・需要は増加していくと考えられます。
考察(感じていること)
以上、PMIの推計をご紹介しましたが、少し考えねばならないポイントもあります。
PMIの推計は「プロジェクトマネジメント指向の雇用」や「プロジェクト型産業」という概念を用いており、経済統計で直接観測される指標ではありません。したがって、プロジェクトエコノミーを厳密に証明する“決定的統計”とまでは言えません。
また、プロジェクトの増加は必ずしも高い生産性を実現しているわけではありません。案件が増えても、中止・遅延・失敗が多ければ、付加価値への転化率は低くなります。
それに加え、オペレーションとプロジェクトは対立概念ではなく、実際には相互依存しています。優れたオペレーションがあるからこそ、次の変革プロジェクトが回り、プロジェクト完了後はオペレーションに移管してより良いオペレーションにつながっていること等があります。
それでもなお、現時点で言えることは明確です。プロジェクトエコノミーを「変化を実装する活動が、企業や社会の価値創出に占める比重を高めている状態」と定義するなら、その方向への移行はかなり進んでいるのではないでしょうか。
少なくとも、プロジェクトに関わる人材需要は中長期で増加しており、プロジェクト型産業の経済的重要性も拡大しています。問題は、プロジェクトエコノミーが到来したかどうかを二者択一で論じることではなく、その進行を前提に、企業がどのように人材・ガバナンス・意思決定を組み替えるかや組織変革を実施していくかにあります。
いま起きているのは、オペレーションの時代の終わりではなく、オペレーションの上に、絶え間ない変革プロジェクトが経営の中核として積み上がる時代になっていると感じています。だからこそ企業は旧態依然の組織や考え方からプロジェクト型の思考や文化を醸成していくことが必須であると感じます。
参考にした主な出典
- Project Management Institute(PMI), Project Management Job Growth and Talent Gap 2017–2027, 2017. プロジェクトマネジメント指向の雇用が2017年から2027年にかけて33%増加し、2027年までに約8,800万人規模に達するとの推計、および人材不足による約2,080億米ドルのGDPリスクの試算を参照。
URL: https://www.pmi.org/learning/careers/job-growth

- Project Management Institute(PMI), Talent Gap: Ten-Year Employment Trends, Costs, and Global Implications, 2021. 2030年までに2,500万人の新たなプロジェクト専門人材が必要であり、毎年230万人の流入が必要との推計を参照。
URL: https://www.pmi.org/learning/careers/talent-gap-2021

- Project Management Institute(PMI), Global Project Management Talent Gap, 2035年までに世界的に最大3,000万人のプロジェクト専門家の人材不足が生じる可能性があると予測。
URL: https://www.pmi.org/learning/thought-leadership/global-project-management-talent-gap

追伸:
実はこの記事を投稿することに至ったのは、とある日本の企業の経営層の方と会話した際のやり取りにおいて「プロジェクトエコノミーが到来している客観的な根拠(データ等)を整理しておいた方が良い」と思ったことがきっかけです。皆さんの所属されている(コンサルの方であれば支援先の)企業・組織ではどのような状況でしょうか。何かプロジェクトエコノミーの到来に関連した情報、根拠・データなどがあれば差し支えない範囲で教えていただけると助かります。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
