”プロジェクトがどのような価値をもたらすか?”を定義するヒント”
プロジェクトの成功の定義が従来の内容から変わってきていることは、別の記事「次のレベルに進化するプロジェクトマネジャー」でも記載していますが、皆さんもPMI(Project Management Institute)の最新のグローバルスタンダード(PMBOK等)や発信等をご覧になってご承知のことと思います。
これまでプロジェクトマネジメントでは「QCD(Quality, Cost, Delivery)」、つまり品質・コスト・納期を守ることがプロジェクトの成功の指標とされてきました。計画通りにプロジェクトを進め、無事にゴールへ到達することが重要視されていました(これはこれで重要です)。ただ、近年はビジネス環境の変化や顧客の多様化するニーズにより、単なるQCDの達成ではなく「プロジェクトを通じて如何に新たな価値を創出できるか」が重視されるようになりました。
PMIは2024年に、新たなプロジェクト成功の定義を打ち出しました。「労力と費用に見合う価値をもたらしたかどうか」で判断することを提唱しています。(この内容は「プロジェクトの成功についての新たな定義とは」という記事でご紹介しています)また、最新の PMBOK®︎ 8th Editionでも同様に価値(Value)にフォーカスした内容となっております。

引用:Reframing Project Success By Project Management Institute.19 September 2024
では、このプロジェクトの価値は、どのように定義すれば良いのでしょうか?価値という表現だけでは漠然としており、具体的な価値とは何かを見極めて定義する必要があります。
この記事では、プロジェクトがどのような価値をもたらすのかの見極め(定義)について考えていきたいと思います。
目次
価値について考える
私が「価値創出」について考えた際に真っ先に頭に思い浮かんだのが、2023年頃に話題となった”バリュースティック”という考え方です。これは、ハーバード・ビジネス・スクールのフェリックス・オーバーフォルツァー・ジー教授が出版された書籍「価値こそがすべて!」(日本語訳版.東洋経済新報社)に記載されているもので、読まれた方もいらっしゃるかと思います。

「価値」こそがすべて!ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義(東洋経済新報社)より
これは、バリュー戦略の基本的かつシンプルな考え方で、企業が、顧客、従業員、サプライヤーに対して確固たる価値を創造していることを表現するもので、”バリュースティック”と呼ばれるものです。
- バリュースティックの上限は、WTP(支払意欲額)という、ステークホルダーが製品やサービス等に対して支払うであろう上限額、言い換えればステークホルダーが価値を認めるレベルになります。
- バリュースティックの下限は、WTS(売却意思額)という、サプライヤーが製品やサービスを供給することのできる最低限の価格を意味し、例えば生産や導入が容易になればこのレベルは下がります。
- WTPとWTSの差が、創造された価値と定義しています。WTPを上げるまたはWTSを下げることにより価値を最大化させるという考え方です。
これは、大変シンプルな考え方で、プロジェクトの価値について考える際にも大変役立ちます。
プロジェクトの価値について定義する
では、この「バリュースティック」をプロジェクトに当てはめてみると、どうなるでしょうか。例えばDXプロジェクトの例で考えてみましょう。以下はあくまでも例ですが、こんなイメージではないでしょうか。
DXプロジェクトの価値(例)
費用面を中心とした内容
- WTP(Willingness To Pay)
経営・事業側が「このDXの成果に対して、いくらコストやリソースを投じてもよいと考えるか」
例としては、この業務デジタル化で、年間1,000万円以上の利益改善が見込めるなら、初期投資2,000万円までは出してもよいなど。 - WTS(Willingness To Sell)
プロジェクト側(IT部門・現場部門・外部ベンダーを含む)が「このDXの成果を提供するために、最低いくらのコスト・対価を確保できないと割に合わないか」
例としては、これだけの要件・リスク・スコープなら、最低でも1,500万円の予算がないと採算が合わない。 - 価値としては、WTP - WTSの額(500万円)で定義
この例は、あくまでも費用面からのWTP、WTSで、わかりやすく明確です。
ビジネス観点の内容
本来のDXであれば費用面だけではなく、その他観点(ビジネス面での価値)でのWTP、WTSも考慮することが肝心です。例えば以下のような内容です。
- WTP(コンプライアンス・リスク低減について)
手作業・紙管理に起因する不正・ミスで、毎年数百万円規模のロスや、監査対応の手間が発生している。
不正・ミス防止や監査対応の効率化により、期待値で年間数百万円の損失回避が見込める。 - WTP(従業員体験EX向上について)
直行直帰・リモートワークが進む中、紙精算が阻害要因となり離職要因にもなっている。
年間数名の離職回避や採用力向上の“経済価値”をざっくり年間数百万円相当と評価。 - WTS(リスク面)
要件不確実性やチェンジマネジメントの頻度・負荷を考慮した、リスク影響(バッファ)を人月レベルで見込むと数百万円になる。 - WTS(内部リソースの機会損失等)
このDXにPM・業務担当者をアサインすると、別の高収益案件に投入できない。組織としてこの機会損失を数百万円程度と試算する。
その他の社会貢献等
企業では、CSR(Corporate Social Responsibility)やSDGsなど社会に対する貢献に寄与するプロジェクトも実施しています。その場合のWTPの例としては、以下のようなものがありますでしょうか。
- WTP(外部ステークホルダー観点)
社会や市民にとって、例えば公共プロジェクトの経済評価に近い考え方。環境改善に寄与するプロジェクト(地域の河川浄化プロジェクト、都市公演の再生プロジェクトなど)であれば、年間にいくらまで税金(または寄付)を払っても良いかを調査した結果を考慮。 - WTP(企業自身の社会的・環境的な便益、レピュテーション等の効果)
企業が、CO2排出削減や再エネ電力導入・省エネ設備更新のプロジェクトに対する投資や、見込む便益(ESG評価向上、将来的な規制対応コスト削減)などを考慮。
戦略と整合したプロジェクトの価値(WTP ,WTS)
以上、プロジェクトの価値をWTP, WTSで考えて定義することについて述べました。これらのプロジェクトはあくまでも、企業・組織の戦略と整合した価値を創出することが大前提です。
ほとんどの企業・組織の戦略(経営計画など含む)では、収益、顧客満足、社会貢献に関する戦略や目標を設定していると思います。実施するプロジェクトがこれらの戦略にどう紐づいているかを明確にした上で、WTPとWTSを考えて、そのプロジェクトの価値を定義しプロジェクトの目標を設定することが必要となります。また、プロジェクトを無事終えた際に、その価値が創出できているかを確認することが肝心です。
皆さんの企業・組織で取り組まれているプロジェクトにおいて、WTP、WTSの観点で価値をどう定義できるかを一度チェックしてみていただければと思います。私も色々と試していますが、価値をうまく表現することが難しいものがそれなりに有ると感じています。(価値を表現できないものは、見直す・中止するといった判断が必要かもしれません)
以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が少しでも皆さんのヒントになれば幸いです。
