“PPM” にAI適用を模索する

AIによるプロジェクトの取捨選択、優先順位付けの可能性と課題について

はじめに

企業や組織が複数のプロジェクトを並行して運営する中で、限られたリソースを最適に配分し、戦略目標に合致した価値を最大化する「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント(PPM)」の重要性は年々高まっています。ここ最近は、このPPMにAI(人工知能)を活用する取り組みが取り沙汰されるようになってきました。

ただAIをどう適用するかなど、その手法は、現時点ではまだ広く実践されているわけではなく、今後の活用を探るべき検討課題として位置付けられています。本記事では、PPMにおいてどのような領域にAIを活用できる可能性があるのか、また課題となることは何か等について、私の思うところを共有させていただきます。

PPMにおいてAI適用を検討すべき領域について

PPMにおいては、「戦略整合」「リソース管理・配分」などが重要な点となります。戦略に整合したプロジェクトの取捨選択や優先順位付けが必須となり、必要なプロジェクトに限られた資源を配分するなどがあります。

この記事では、プロジェクトの取捨選択や優先順位付について取り上げますが、その判断は、企業・組織が直面している状況(外部環境、戦略、保有資源、緊急度、リスクなど)に基づき実施していく必要があります。ただ、複雑で難しい面がありますので、この領域にAIを適用し、判断の支援などに役立てることが有用だと考えております。

従来の投資対効果(ROIなど)の判断における課題

皆さんが所属されている企業・組織では、どのような判断基準でプロジェクトの選択(開始)を判断・承認されているでしょうか。直感や影響力、緊急性など主観的な要素に依存して決められていると耳にしたこともありますが、プロジェクトの投資対効果(ROI, NPV, IRR他)などの定量的な指標を用いてプロジェクトの選択や優先順位付けを行っている企業・組織も多いと認識しています。これらは、プロジェクトの開始時点における判断材料として有効であり、経営資源の効率的な配分に寄与していると言えます。

しかし、実際のプロジェクト運営では、環境や状況が絶えず変化します。ROI等の投資対効果に基づくものだけではなく、リスクやリソースなども考慮必要です。また、初期判断だけではなく、進行中のプロジェクトが直面する新たな課題や機会に十分に対応できていないケースも少なくありません。ROI指標も、現状維持を前提とした静的な評価になりがちで、状況変化への柔軟な再評価やリアルタイムでの優先順位見直しが課題となっています。

AI活用の意義と新たな視点

AIの進展により、パターン認識や確率、目的に基づく新たな分析手法の導入が期待されています。AIは過去の実績、リソース保持(容量、能力)・消費、ROI、経営戦略との整合性などを多角的に分析し、従来の方法とは異なる視点から意思決定支援を提供することが可能になると期待されています。特に、AIは状況変化をリアルタイムに把握し、データに基づいた再評価を行うことで、ROI中心の静的な判断を補完する役割が期待されます。とはいえ、これらのアプローチは今後検討が必要であり、企業や組織が本格的な導入を進めるためには、多くの実証と試行錯誤が不可欠です。

AIによる先順位付けと評価基準

  • 戦略との整合性が最も強いプロジェクトはどれか?
  • 成果が価値(経営指標等)に最も寄与するプロジェクトはどれか?
  • リスクが最も高いプロジェクトはどれか?
  • 実現性の高いプロジェクトはどれか?
  • 短期的に最も価値をもたらすプロジェクトはどれか?
  • 長期的に見て、今から開始すべきプロジェクトはどれか?
  • プロジェクト進行状況を考慮し、中止すべきプロジェクトは無いか?
  • 経営指標(目標)が変化したが、プロジェクトの目標見直しは必要か?
  • 中断や中止した方が良いプロジェクトは無いか?

これらの問いはあくまでも一例ですが、AIはこれらの問いに対し、膨大なデータを用いて客観的な分析を行うことが期待されています。また、進行中のプロジェクトに対しても状況変化を踏まえた動的な評価を行い、優先順位を柔軟に見直せる体制づくりが今後の重要なテーマです。現段階では理論的なモデルやベストプラクティスを模索する段階であり、実践や普及には至っておらず今後の課題です。経営層やステアリングコミッティは、主観的判断ではなく、根拠あるデータ分析による意思決定を目指すべきですが、まずはそのための基盤づくりや検証が必要であることは言うまでもありません。

導入時の留意事項とポイント

目的は、あくまでもAIを活用して、これから開始するプロジェクトや既存プロジェクトの存在意義を問い直し、最適なポートフォリオを構築することにあります。

導入する際に留意すべき事項やポイントとなることは、沢山あると思いますが、以下はほんの一例です。

<考慮すべき事項>

  • 信頼性の高いデータの確保と分析(今後の課題)
  • 経営層と現場の連携強化(試行と検証が必要)
  • AI活用と判断などのガバナンスを明確にする
  • AIを導入する場合のプロジェクトマネジメント手法を確立する(CPMAI(*1)など)

(*1) CPMAI:Project Management Institute(PMI)は、AIプロジェクト特有の課題に対応するための資格としてCPMAI(Cognitive Project Management in Artificial Intelligence)の認定を実施しています。CPMAIは、AIおよび機械学習プロジェクトに特化したプロジェクトマネジメントのフレームワーク、知識体系の習得に関する認定資格です。AIプロジェクトを成功に導くために、実装・適用するAIのパターンを理解し、CPMAIのフレームワークに基づきアプローチするなど、実践的なスキルと知識を習得した人材を認定するものです。

<AI導入においてポイントとなること>

  • CPMAIのフレームワークには、反復的に実行する6つのフェーズが定義されており、これらはAIを導入・実装する際の考慮すべきポイントとなります。

CPMAIについては、以下の記事に概要を記載していますので、ご参考にしてください。

【記事】AIプロジェクトマネジメントの認定資格:CPMAIのご紹介

今後の展望

ここで述べたAI活用によるプロジェクト選択・優先順位付けの手法は、現時点では未だ理論や検討段階にあり、これからの実践に向けて企業・組織が模索していくべき内容です。直感や影響力依存や、投資対効果などの従来の管理から、データ分析に基づく新しい意思決定プロセスへの転換を目指し、今後も積極的に検討・導入を進めていくことが重要です。

余談ですが、正式な話ではありませんが、PMIでは今後グローバル標準である「The Standard For Portfolio Management」の最新版を数年内には発行し、その最新版ではAI適用に関する内容も盛り込まれるのではと想定しております。これらの動向も見据えながら、実践適用を模索していきたいと思っております。

まとめ

AIを活用したプロジェクト・ポートフォリオマネジメントは、今後技術や実践事例の蓄積とともに進化していく分野です。現状は理論構築や試行錯誤の段階であり、企業・組織における本格的な実践はこれからの課題です。CPMAI資格などの専門的な知識を持つ人材を活かしプロセスを確立するなど、AIと人間の協働による柔軟かつ精度の高いPPM実現に向けて、検討を重ねていくことが必要になると感じております。本記事が皆さんの今後のご検討や実践のきっかけになれば幸いです。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

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