プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの概要についてご紹介いたします。
事業ポートフォリオマネジメントという言葉はビジネスの世界では良く聞き、多くの企業で実践されていることと思いますが、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントという言葉はあまり聞き慣れないのではないでしょうか。本記事では、この「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」についてご紹介いたします。
(本記事は、以前投稿した記事を最新の情報等を踏まえて改訂した記事になります)
目次
ポートフォリオとは?
まず、ポートフォリオという言葉についてですが、ポートフォリオというと、画集・作品集や、金融商品などで使われることが多いと思います。”portfolio” を辞書でひくと、書類かばんケースといった意味が出てきます。イメージとしては、以下の図のような感じです。
カバンの中のものの対象によって(作品集であったり、金融商品であったり、または事業など)、ポートフォリオの意味が異なってきます。
カバンの中の複数の物の対象が「プロジェクト」とイメージすると、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの意味合いがわかりやすいと思います。複数のプロジェクトをひとまとめにするイメージです。
では本題の、複数のプロジェクトをマネジメントする「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」についてご紹介していきます。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントが必要な背景
近年、企業・組織では、様々な変化に直面し、その変化に対応すべく経営戦略を立て、既存事業の維持・発展や新規事業への取り組みなどを実施されていることかと思います。これらの取り組みのアクションとして、以下の図のように、多くの様々なプロジェクトを立ち上げて実行している状況ではないでしょうか。
皆さんが所属されている企業(コンサルの方であれば支援されている企業等)でも、ここにあるようなプロジェクトを複数実行されていると思います。
ただ、次のような話が出ていませんでしょうか?
- プロジェクトの目標が曖昧(組織目標との整合が不明確)
- 多くのプロジェクトがあり優先順位が不明確
- そもそも、企業・組織の中で、実行している全てのプロジェクトを把握できていない
- 複数のプロジェクトを掛け持ちしており、工数不足が状態化している
- プロジェクトを無事終えたが、売上や利益等、経営にどう貢献したか曖昧
- 苦労してプロジェクトを終えたが、上からあまり評価されない
実行している多くのプロジェクトが、企業・組織の経営戦略や中期経営計画などの目標にそったものになっているかどうかや、限られたリソースの中で多くのプロジェクトを同時並行的に実施することなどは、企業組織において大きな課題だと感じています。
これを実現するための取り組みが、「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」であり、近年欧米で普及し、アジア各国でも注目されている取り組みになります。ぜひ、本記事を読んでいただきご参考にしていただければと思います。
概要をご紹介する前に、主な世界の団体が「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」について定義しており、事実上の世界標準(グローバルスタンダード・ベストプラクティス)として発行されていますので、ご紹介します。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの世界標準
このプロジェクト・ポートフォリオマネジメントですが、欧米発祥の世界標準(事実上のグローバルスタンダード)があり海外では普及しています。
代表的なものを次の表にまとめております。
世界最大のプロジェクトマネジメント協会(PMI:Project Management Institute)の「The Standard for Portfolio Management」や、英国商務省が母体で設立したAXELOSが発行している「Management of Portfolios」が主なもので、国際標準化機構もISO21504として定義しております。
これらの世界標準は細かな部分は異なるものの、大筋は一致しております。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの概要
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントとは
ご紹介したように、3つの団体が世界標準を発行しており、それぞれ、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの定義をしております。表現は異なるものの内容は類似しております。これらの内容をもとに表現すると、次のように言い表せますでしょうか。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントとは
戦略目標を達成するために実施するプロジェクト等の活動をポートフォリオとしてとりまとめ、その価値を創出することにより戦略目標の達成を実現していくもの
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの概要
以下の、概要図をご参照ください。
- 企業・組織の経営戦略、経営計画目標があり、この目標を達成するためにプロジェクト・ポートフォリオマネジメントを実践していきます
- ポートフォリオの配下には、多くのプロジェクトがあり、戦略整合の観点で連携することが最も重要となる点です
- 個々のプロジェクトの目標を達成することにより、経営戦略に整合した成果を創出します
- プロジェクト単体で実行するだけでは成果が得られないような戦略目標に対しては、複数のプロジェクトを束ねて(シナジーを生み出し)プログラムとして成果を創出します(これはプログラムマネジメントの手法で、別の記事でご紹介しています)
また、このプロジェクト・ポートフォリオマネジメントを実践する流れ(フロー)は次のようなイメージです。
このフローにおいて、個別に以下のマネジメントを実施していきます。
- 戦略との整合を確実にするマネジメント
- 戦略に整合した価値を創出するマネジメント
- リソース(資源)のマネジメント
- ステークホルダーのエンゲージメント
- リスクマネジメント
- ガバナンスの確立
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの解説書
日本において、プロジェクトマネジメントは浸透しており、解説する書籍も非常に参考になるものが多く出版されております。PMBOKを解説するものやプロジェクトマネジメントを実践レベルに落とし込み解説するものなど多々あります。一方、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントは海外(欧米や中国、インドなど)では注目を集めており普及してきておりますが、日本では未だ知っている人も少なく、解説する書籍あまりない状況です。
そこで、日本においてプロジェクト・ポートフォリオマネジメントを普及させるために、2023年9月に『プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの教科書』を発刊いたしました。記事では概要をご紹介しましたが、本書では実施例なども交えて内容を解説しております。また、実行するための組織や人材育成などを含めご紹介しております。もう少し詳細を知りたいという方は、是非お手にとって頂ければ幸いです。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの国際資格
欧米ではプロジェクト・ポートフォリオマネジメントの取り組みが先行しており、ポートフォリオマネージャーという役割も存在します。プロジェクトマネージャーの上位に位置つけられており、どちらかとういうと経営者に近い存在で、経営に直結した経営管理の役割を担っている印象です。またプロジェクト・ポートフォリオマネジメントを実践するスキルを持つことを認定する国際資格もあります。主な資格としてはPMI(Project Management Institute)が認定する国際資格、PfMP®︎ (Portfolio Management Professional)があります。
海外では、このPfMP®︎ホルダーが多くなってきておりますが、残念ながら日本におけるPfMP®︎資格保持者は、徐々に増えていますが未だ18名です(2024年4月30日時点:PMI Certification Registryで調査した結果より)
他の記事で、PfMP®︎資格の内容をご紹介しておりますので、ご参照ください。
近年、プロジェクトが増加の一途で、プロジェクトの成否がビジネスの成長を左右する時代になってきており、ぜひ経営者、経営管理部門、PMO、経営コンサルタントの方などに、チャレンジしていただきたい資格になります。
PMI日本支部のポートフォリオ・プログラム研究会では、日本におけるPfMP®︎資格者を増やしていく活動を継続して実施しております。セミナーや資格説明会の開催などを実施しておりますので、資格にチャレンジをされる方は、PMI日本支部のホームページからお問い合わせをいただければ思います。
PfMP®︎資格についての記事はこちら。
資格保持者数についての記事はこちら。
以上、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの概要をご紹介しました。
冒頭にも記載しましたが、プロジェクトが増加の一途で、プロジェクトの成果がビジネスの成長に貢献する時代に突入しています。このような状況下でご紹介したプロジェクト・ポートフォリオマネジメントは極めて重要なマネジメント手法といえます。ぜひ皆さんの企業・組織でもご参考にしていただき役立てていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。