プロジェクト・ポートフォリオマネジメントのリソースマネジメントいついて解説
目次
はじめに
企業や組織が複数のプロジェクトを同時並行で進める現代において、プロジェクト・ポートフォリオマネジメント(以下PPMと記載)は経営戦略を実践するうえでの重要な一翼を担っています。その中でも、リソース、特に「人材」の管理と配分は、プロジェクトの成功に直結する大変重要なテーマです。ただこのリソース管理は多くの組織で未解決のままであり、最適な配分を実現することは一筋縄ではいかない課題だと言われています。
本記事では、PPMにおける人的リソース管理の意義、直面する課題、実施するにあたっての方法や活用可能なツールについてご紹介します。
不足するプロジェクト人材
PMI(Project Management Institute)の調査によりますと、2030年までに世界では新たに2,500万人のプロジェクト専門職が必要になると予測されています。その状況を維持し需要を満たすためには、毎年約230万人のプロジェクトマネジメント関連人材が必要になるとのことです。(引用:PMIが公開している記事「Narrowing the Talent Gap」より)
この数字を見て、実際の我々のビジネスにどのくらい影響があるのかがピンときませんが、日本においても同じ状況で、現在でもプロジェクト人材が不足していることは間違いありません。
私は、PPMに関するセミナーやワークショップの講師を務めさせていただく機会がありますが、その際に「プロジェクトが失敗する、または失敗するリスクが高まる要因」について確認しております。これまでの受講者の7割以上の方が「プロジェクトへの支援(人的リソース等)が十分ではない」ことをあげられています。皆さんが所属されている企業・組織ではどのような状況でしょうか。
リソース管理を実施する意義
プロジェクト人材が不足している状況において、優秀なキャリア人材の採用や、新卒採用者の育成を実施することは必要となります。ただこれらの取り組みを実施していたとしても、直ぐに不足を補うことは簡単ではありません。よって、現在保有している限られた人材を効率的に管理・活用していくことが最も重要なテーマになります。その意義としては主に以下の3つがあります。
- 組織全体の最適化: 限られた人的リソースを最も価値のあるプロジェクトへ適切に配分することで、組織の成果最大化が期待できます。つまり、組織においてプライオリティの高いプロジェクトにより能力のある優秀な人材(プロジェクトマネジャー等)をアサインすることにより組織に価値をもたらすことを確かなものとします。
- 優先順位の明確化: 経営目標に整合したプロジェクト選定とリソース配分により、戦略的な意思決定が可能となります。また、限られたプロジェクト人材を無駄なく優先順位を踏まえた上でアサインすることを可能とします。
- リスクの低減: 過負荷やリソース不足によるプロジェクト失敗リスクを未然に防ぐことができます。
課題
リソース管理の意義を認識していても、簡単に実現できることではなく、課題は多くあるのが現状だと思います。主な課題としては以下があります。
- リソース可視化の難しさ: 各メンバーのスキル、稼働状況、希望などを正確に把握することの難しさがあります。メンバーも流動的(異動、退職や入社)であり、スキル・経験のアップデートもリアルタイムに最新の情報を管理することが必要です。
- 優先順位の変化: 外部環境(市場)や内部環境(経営計画の変更など)により、プロジェクトの優先度が変化し、リソース配分の再調整が必要となります。
- コミュニケーションの不足: 部門間、プロジェクト間で情報共有が不十分だと、重複や配分ミスが発生します。
- 人的リソースの限界: 特定のスキルを持つ人材が限られている場合、配分する際に(同じ人間が複数を兼任する等)偏りがちになります。
具体的な方法
リソースを管理していくにあたっては、保持している資源の質(能力)と量のマネジメントが必要となります。そのイメージを以下に示します。

では、リソースを管理していく際の方法については、どのようなものがありますでしょうか。主な内容としては以下を実施することが有用です。
- リソースインベントリの作成: 社員やメンバーのスキル、経験、稼働可能時間などをデータベース化し、可視化します。役割ごとのスキル基準等を定義しスキルマップを作成。そのスキルマップはリソースを共有する企業組織内で統一することが不可欠です。
- プロジェクトごとの必要リソースの明確化: 定義したスキルマップに基づき、各プロジェクトの必要なスキル・人数、期間を事前に定義します。
- 定期的なリソースレビュー: 週次・月次でリソース状況を確認し、必要に応じて再配分します。
- 柔軟なリソース配分: プロジェクトの進捗や優先度の変化に応じて、素早くリソースを再配置できる体制を整えます。
- コミュニケーションの強化: 部門横断的な会議や情報共有ツールを活用し、リソース配分の透明性を高めます。
- ポートフォリオマネジメントオフィス等の設置: 以上1〜5を俯瞰して実施する、組織横断的な組織(PMOなど)を明確にします。
活用できるツール
リソースの管理・配分を効率的に実施するツールは、世界的には数多くあると言われてます。日本国内においてもツールを導入されている企業があると思いますが、機能が実装されていても使っていない(もしくは使いこなせていない)などの状況があると耳にします。スプレッドシート(Excelなど)を活用して管理表を作成しているケースは多くあると想定しますが、前述したような組織全体で管理し共有・可視化することには課題があると感じています。ツールはリソース配分やプロジェクトの透明性を高めるとともに、戦略に直結した意思決定をサポートすることも重要となります。
代表的なプロジェクト管理ツール(参考)
プロジェクトごとのタスク管理とリソース割り当てなどの機能を搭載したツールですが、参考までに私が知っている主なものを以下に記載します。残念ながら私はこれらのツールの使用経験がなく細かなことを把握しておりませんので、詳細に知りたい方はリンク先製品のページ等をご確認ください。
追記: 以下のツールにおいて、現時点で提供しているサービスや機能が変更・中止となっている、または今後変更となることもありますので、あくまでも参考としてご覧ください。
- Microsoft Planner and Project Plan 5: https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/planner/project-plan-5?activetab=pivot:概要tab
- Asana: https://asana.com/ja/resources/asana-on-asana-resource-planning
- Jira: https://marketplace.atlassian.com/apps/1212259/bigpicture-portfolio-resource-management-for-jira
まとめ
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントにおける人的リソースの管理と配分は、組織の目標達成に不可欠な要素です。意義を理解し、課題を乗り越えるための具体的な方法の実践と適切なツールを活用することで、より効果的なリソース運用が可能となります。
この記事にご紹介したことを実践するには、組織文化(プロジェクト文化)の醸成、体制、プロセス、ガバナンスの確立、システムへの投資などを合わせて実施する必要があると思っております。これらを網羅して実施することは容易ではありません。ただこの記事をご覧になって現状出来ていること、改善必要なこと、今後確立していくことなど、少しでも皆さんのヒントになれば幸いです。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
