オペレーション主体の考え方からの脱却 〜 ポジティブ組織心理学を活用しプロジェクト文化創出へ
はじめに
私がセミナーの講師を実施させていただいた際に、プロジェクトの悩みごととして「部門の壁があり、組織横断的なプロジェクトを実行する際に障壁がある…」といった声をよく聞きます。皆さんが所属されている企業や組織ではいかがでしょうか。この課題は、旧態依然の組織の考え方(つまり部門のオペレーション主体の考え方)にあるということは容易に想像ができます。
この記事では、オペレーション中心の組織文化にプロジェクト文化を取り入れることについて、少し考えてみたいと思います。
目次
背景
現代の企業・組織においては、従来の「オペレーション中心」の組織文化から、「プロジェクト文化」への転換が求められています。その背景には、「プロジェクトエコノミー」(*1) と呼ばれる新たな経済環境の到来があり、企業の利益創出の源泉がプロジェクトへとシフトしている現状があります。さらにこうした変革を成功させるためには、ポジティブ組織心理学で提唱される理論や実践をもとに、具体的なアクションを取っていくことが有用です。本記事では、変革の必要性とポジティブ組織心理学に基づく実践的アプローチについて考えます。
(*1)これまでは反復的なオペレーションが主体となり利益を創出していたが、近年はプロジェクトベースでの価値創造の割合が高まっており、組織の成長や利益獲得がプロジェクトによって生み出される経済環境となってきていることを「プロジェクトエコノミー」と表現しおり、数年前よりHBR(ハーバードビジネスレビュー)等の論文でも取り上げられている
オペレーション中心の組織文化の課題
オペレーション中心の組織文化とは、日々の業務や定型的な業務プロセスを重視し、効率や安定性、繰り返しを前提とした運営スタイルが根付いた企業文化を指します。特にこのような組織文化では、保守的であり、変化を受け入れにくい傾向が強く見られます。新たな挑戦よりも現状維持を優先し、いわゆる「コンフォートゾーン」にとどまることを好むため、組織全体として変革への機運が生まれにくいという課題があります。この文化のもとでは、業務の最適化やコスト削減、品質維持といった目標が重視され、組織は規模を維持・向上しかつ安定した運用を目指します。このことは非常に重要でこれらを否定するものではなく、これらを継続し実現していくことは言うまでもなく必須です。ただ、その反面、急激な市場変化や新たなアイデアへの柔軟な対応が難しくなることも指摘されています。
プロジェクト文化への変革が求められる理由
プロジェクトエコノミーの到来により、従来のオペレーション中心のアプローチでは急速な市場変化や多様化する顧客ニーズへの対応が困難となっています。プロジェクトは、明確な目標を持ち、期間や成果が定められた取り組みであり、変化や不確実性に柔軟に対応できる点が特徴です。これにより、企業は新たな価値の創出や競争力強化を図ることができます。
従来のオペレーション中心の文化とプロジェクト文化の相違(例)について、以下の表に記載しています。

プロジェクト文化創出へのアプローチ(ポジティブ組織心理学)
では、どのようにプロジェクト文化を創出して組織を変革していくのか、これは容易なことではありません。この変革にあたっては、ポジティブ組織心理学(*2) を用いたアプローチが大変参考になります。
(*2)マーティン・セリグマン(Martin Seligman)博士がポジティブ心理学を提唱し、彼の理論を組織に応用したものがポジティブ組織心理学(Positive Organizational Scholarship / Positive Psychology in Organizations)と言われています。
実は、私は2015年に、この「ポジティブ組織心理学:Positive Organizational Psycology」を米テンプル大学日本校の生涯教育プログラムで学びました。前職(外資系企業)でどのように組織カルチャーやエンゲージメントを向上すれば良いかを悩んでいた際に受講しました。(ここで学んだ内容を参考にしポイントとなる内容を記載しています)

組織の改善・変革の際のアプローチ
ポジティブ組織心理学のアプローチは、従来のアプローチとは異なります。簡潔にいうと以下になります。
- 従来のアプローチ:どちらかというとネガティブなこと(ストレス、低いパフォーマンス)に焦点を当て、それらのレベルを引き上げることに注力する
- ポジティブ組織心理学のアプローチ:強みに焦点を当て、人々を現状のレベルから繁栄(最適な)レベルへと導くことに注力する
ポジティブ組織心理学が提唱する主な要素
ポジティブ組織心理学が提唱する主な要素としては、「強みの活用」「心理的安全性の確保」「エンゲージメントの向上」「意味づけや目的意識の醸成」があります。これらは組織の活力や創造性、持続可能な成果につながります。具体的アクションとしては以下のような取り組みが挙げられます。
- 強みに焦点を当てたチーム編成 メンバー各自が持つ得意分野や強みを発揮できる役割を担うことで、プロジェクトの成果を最大化する。(例:プロジェクトマネジャーなど、プロジェクトの経験や知識をもった人材を登用)
- 心理的安全性の高い環境づくり 自由にアイデアを提案し、失敗を恐れずに挑戦できる雰囲気を醸成する。(例:オペレーションのしがらみや制限に囚われない、変革を中心とした発想を評価)
- エンゲージメントの向上 個人の目標と組織・プロジェクトの目的を結びつけ、主体的な参加を促す。(例:従来組織でありがちな組織全体の横並び評価からの脱却。JOB型への移行を採用、加速するなど)
- ポジティブ・フィードバックの実践 成果や努力を積極的に認め合い、前向きな成長サイクルを生み出す。(例:メンバーの強みを認識し、日々のインターラクティブなコミュニケーションを推進)
- 意味づけの共有 プロジェクトの目的や社会的意義を明確に伝え、チームとしての一体感を高める。 (例:組織の戦略目標とプロジェクトが創出する価値や戦略目標への貢献度合いを共有)
エンゲージメントとフローについて
エンゲージメントは組織への「絆・共感・意欲」で、フローは「最高の没入・集中状態」を指し、フロー状態に入ることでエンゲージメント(特に仕事への意欲や満足度)が高まるという密接な関係があると言われています。よって個人のレベルを上げ、フローへ導く取り組みも重要です。フロー状態を作るためには、一般的に以下の取り組みが必要となります。
- 目標が明確で、かつ自分にとって適切な難易度であること。
- すぐに進捗がわかり、フィードバックが得られること。
- 取り組む課題に価値を感じ、それに集中できる環境であること
以下は、スキルレベルとチャレンジレベル(難易度)を考慮した、フロー状態へのイメージ図です。

プロジェクト文化への転換のポイント
ポジティブ組織心理学を考慮したプロジェクト文化への変換のポイントとしては以下でしょうか。
- 目的志向の明確化: 企業組織の戦略に整合したプロジェクトごとに達成すべき目標や成果物を明確にし、組織全体で共有する(実施しているプロジェクトが企業・組織に貢献していることを明確にする)
- 柔軟な組織体制: 専門性や多様なバックグラウンドを持つメンバーでプロジェクトチームを編成し、必要に応じて素早く組織を再編する
- チャレンジの奨励: 新しいアイデアや挑戦を歓迎し、失敗から学ぶ文化を醸成する(フロー状態を目指す)
- 成果重視の評価: プロセスだけでなく、プロジェクトで生み出された成果や価値を評価基準に組み込む(必要に応じ人事部門を巻き込み、評価制度を変更する)
プロジェクト文化を形成する組織形態
プロジェクト型組織について
プロジェクト文化への変革と維持向上のためには、従来のオペレーション中心の階層型組織だけではなく、よりプロジェクト型の組織を導入する検討も必要となります。プロジェクト型組織は、部門や専門領域を越えてプロジェクト関連の専門知識や経験を持ったメンバーが集まり、フラットかつ階層の少ない構造によって迅速な意思決定と柔軟な動きを可能にします。特に、部門を横断する大規模なプロジェクトを推進し、組織全体で新たな価値を創出するには、このようなフラットなプロジェクト組織形態が不可欠となります。
経営層の役割について
また、経営層の役割も変化しつつあります。従来のオペレーションを管理運営するCOO(Chief Operating Officer)だけでなく、プロジェクト全体の責任を持ち、プロジェクトを通じて価値創出にコミットするCPO(Chief Project Officer)の必要性が増しています。アメリカなどでは実際にCPOとしてプロジェクト経営をリードする経営層も増えており、プロジェクト型組織の導入と経営層の変革がグローバルで加速しています。
まとめ
プロジェクトエコノミーの時代、企業や組織には「オペレーション中心」から「プロジェクト文化」への変革が求められています。持続的な成長と競争優位性を確立するためにも、今こそポジティブ組織心理学で提唱されるエッセンスを取り入れ、強みや心理的安全性を活かした具体的なアクションを推進し、横断的なプロジェクト型組織構造を積極的に導入していくことが必要でしょうか。また、経営層であるCPOのような新たな役割を設け、そのリーダーシップを発揮する人材を登用することが、これからの時代の企業にとって不可欠と言えます。
以上、長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。ご参考にしていただけることがあれば幸いです。
補足:
本記事に掲載した、プロジェクト文化やプロジェクト型組織については、拙著「プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの教科書」の第5章で具体例を含めて取り上げております。ご興味のある方は是非ご覧ください。

