前回「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント(PPM)にAI適用を模索する」という記事を投稿しました。多くの方に読んでいただいており、ありがとうございます。https://p3moffice.com/2025/12/ppm-ai-consideration/
今回、この記事では、実際にどのようなプロセスにどのように活用することが可能かを、”プロジェクトの選定・優先順位づけ”を例に少し試してみました。簡易な例ですがご紹介します。
目次
選定・優先順位づけで考慮する要素と制約条件(例)
プロジェクトの優先順位づけを実施する際に、投資回収の観点で決めているという企業・組織は少なくないと思いますが、投資回収以外にも様々なことを考慮する必要が現実にはあります。どういった基準で判断すれば良いかは、企業組織の状況により異なりますが、例えば次に記載するような要素があります。
プロジェクト選定・優先順位付時に考慮すべき要素(例)
- 投資対効果: 投資額に対する回収期間は?
- 重要度: 組織の戦略を達成するために実施すべき重要なプロジェクトかどうか?
- 緊急度: 規制対応など早急に実施すべきプロジェクトかどうか?
- リスク: プロジェクトのリスクの度合いは?
- 実現性: プロジェクト目標の実現可能性は?
- 経営貢献度合い: プロジェクト完了した結果、経営指標(営業利益等)への貢献は?
- その他
また、これらの要素以外に、制約条件も考慮が必要になります。
プロジェクト選定時の制約条件(例)
- 企業・組織におけるプロジェクトに投資可能な額
- プロジェクトにアサイン可能なリソース
- その他
以上のような条件や制約を考慮した上で、最適なプロジェクトを選定し優先順位づけすることが、企業組織の戦略・経営計画の達成につながる価値を創出することになります。これらの方法については、様々なやり方はありますが、生成AIを使って実施することを検討します。
選定・優先順位づけの際の流れ(手順)
まず、プロジェクトを選定し優先順位づけする際の流れ(手順)を把握し、そのうえでどの部分に生成AIを活用できるかを明確にしたいと思います。
プロジェクト選定・優先順位づけの流れ(手順)
- 経営戦略・経営計画に整合したプロジェクトの洗い出し(候補プロジェクトの一覧)
- 洗い出した各プロジェクトの要素を定義(プロジェクト一覧に情報付加)
- プロジェクトの各要素の重み付けを決める
- プロジェクト投資の制約条件を明確にする(投資額上限、リソース投入可能人数など)
- プロジェクトの選定・優先順位(案)を策定(プロジェクト一覧、要素・重み付け、制約条件から判断)
- 実行するプロジェクトを最終判断・決定(ステアリングコミッティ等にて)
以上の一連の流れのうち、生成AIを使って活用できそうなところですが、最も活用し効率化できそうなのが、5項のプロジェクトの選定、優先順位づけの案を策定するプロセスでしょうか。
ITTOで考える
このケースでは、PMI標準で馴染みのある方も多いかもしれませんが、ITTO(Inputs, Tools & Techniques, Outputs)で考えると整理できます。以下のようなイメージでしょうか。

生成AIで試してみました(例)
前述のITTOを考慮して、具体的に生成AIをどのように使っていくかを簡易的な例で試してみました。その内容をご参考までに共有いたします。使用した生成AIは、PMI(Project Management Institute)が会員向けに提供している“PMI Infinity”です。
“PMI Infinity”へのInputs
プロジェクト一覧と要素
プロジェクト一覧とそれぞれの要素について以下の表にまとめ、PDFで”PMI Infinity”に読み込ませました。表にある通り、この例では7つのプロジェクトがあり、それぞれの投資額、必要リソース、回収期間、重要度、緊急度、リスク、実現性、営業利益貢献学と時期の要素を記載しています。

制約条件をインプット
以下の2つを制約条件としインプットしました。
- 投資額の条件: 1,200 M¥
- 使用可能な最大リソース:12人
各要素の重み付けをインプット
優先順位づけをする際の基準として、以下の重み付けをインプットしました。
- 投資回収が早いもの(重み:1.5倍)
- 重要度が高いもの(重み:2倍)
- 緊急度が高いもの(重み:3倍)
- 実現性が高いもの(重み:1.5倍)
- 営業利益貢献度が高いもの(重み:3倍)
- 営業利益貢献速度が早いもの(重み:1.5倍)
生成AI(PMI Infinity)からのOutputs
ほぼ、待ち時間なく、以下の合計スコアの回答を得られました。

この結果として、優先順位づけとしてはスコアの高いものが優先となりますが、”PMI Infinity”が制約条件を考慮して選定したプロジェクトは以下です。
- プロジェクトC:予算200M、リソース3人、スコア54
- プロジェクトD:予算300M、リソース5人、スコア53.5
- プロジェクトB:予算150M、リソース2人、スコア29.5
- プロジェクトA:予算100M、リソース2人、スコア29.5
合計消費予算:750M
合計消費リソース:12人(制約条件内)
上記の結果をよく見ると、最初にインプットした「営業利益貢献の時期」の要素が含まれてないので、営業利益貢献年度の早い順を考慮するよう指示したところ、年度の早いプロジェクトにスコアを付与し、その重み付けを1.5倍として、PMI Infinityが再度選定してくれました。その結果が以下です。

選定されたプロジェクトの詳細は、最初の選定結果と同じでした。
- プロジェクトC: 予算 200M、リソース 3人、スコア 57、営業利益貢献年度 2027年
- プロジェクトD: 予算 300M、リソース 5人、スコア 55、営業利益貢献年度 2028年
- プロジェクトB: 予算 150M、リソース 2人、スコア 33、営業利益貢献年度 2026年
- プロジェクトA: 予算 100M、リソース 2人、スコア 33、営業利益貢献年度 2026年
合計消費予算: 750M
合計消費リソース: 12人
また、選定理由を聞いてみたら、以下の内容で応答がありました。それなりにまともな回答です。
選定した理由
- プロジェクトC(スコア57, 営業利益貢献年度2027年)
- 理由:
プロジェクトCは、全プロジェクト中スコアが最も高い(57)ため、最優先としました。スコアが高い理由は、緊急度(24点)、重要度(6点)、実現性(10.5点)、営業利益貢献(9点)など、バランス良く優れた特徴を持ちつつ、投資回収スコア(4.5点)も良好だったためです。また、予算が200Mと比較的低く、リソースも3人と少人数であり、制約条件を十分満たしています。さらに、営業利益貢献年度が2027年と比較的早いことも選定理由に加わっています。
- 理由:
- プロジェクトD(スコア55, 営業利益貢献年度2028年)
- 理由:
プロジェクトDはスコアが55と高く、特に重要度(10点)と緊急度(21点)が他のプロジェクトよりも優れているため、選定に至りました。実現性(13.5点)も非常に高く、成功可能性が高いプロジェクトです。また、予算300M、リソース5人という範囲は制約条件内で、実行可能です。営業利益貢献年度は2028年と、比較的遅いものの、このスコアの高さから割り当てられました。
- 理由:
- プロジェクトB(スコア33, 営業利益貢献年度2026年)
- 理由:
プロジェクトBのスコアは33と中程度で、投資回収速度(3点)と緊急度(15点)が安定した評価となりました。特に営業利益貢献年度が2026年と全プロジェクトの中で最も早い点が重要な選定理由です。低コスト(150M)かつ少人数(2人)で実施可能である点も、制約条件内で選定される理由となっています。
- 理由:
- プロジェクトA(スコア33, 営業利益貢献年度2026年)
- 理由:
プロジェクトAもスコア33を獲得しており、投資回収速度(3点)と緊急度(15点)、営業利益貢献年度2026年という早期性が選定理由です。このプロジェクトは予算(100M)とリソース(2人)が少なく、プロジェクトポートフォリオ全体のバランスを保つ形で採用されました。また、プロジェクトBと同様に早期の営業利益貢献が期待できます。
- 理由:
選定から除外されたプロジェクトとその理由
- プロジェクトE(スコア54, 営業利益貢献年度2028年)
- 理由:
プロジェクトEはスコアが54と高いものの、予算(500M)とリソース要求(6人)の消費が大きすぎるため、制約条件を超えずにより多くのプロジェクトを選ぶという観点で選外となりました。また、営業利益貢献年度が2028年と遅い点も選定に不利となりました。
- 理由:
- プロジェクトF(スコア55, 営業利益貢献年度2028年)
- 理由:
プロジェクトFはスコアが高い(55)ものの、リソース(4人)を消費すると他のプロジェクトを選びにくくなる制約があるため選外となりました。また、営業利益貢献年度が2028年と遅い点でも優先度が低下しました。
- 理由:
- プロジェクトG(スコア55.5, 営業利益貢献年度2028年)
- 理由:
プロジェクトGはスコア面では高評価(55.5)ですが、予算消費(800M)が非常に大きいため、他の複数のプロジェクトを進めるという全体最適の観点から除外されました。また、営業利益貢献年度が2028年と遅いため、優先順位が低くなりました。
- 理由:
PMI Infinityの最終結論
この選定結果により、制約条件を完全に満たしつつ、スコアが高いプロジェクトを優先的に選択しました。また、営業利益貢献が早いプロジェクト(A, B)が加わることで、短期的成果と長期的成果の両方を確保できる構成を実現しています。
まとめ
以上が、プロジェクトの選定・優先順位づけの例で、生成AIの活用を試してみた内容です。
この記事でご紹介した内容は、簡易的な例で、実際のビジネスに適用する際には、各要素の選定や重み付けをどのくらい付加するかが、かなり複雑で重要なポイントとなります。この辺りはやはりビジネスを運営している人間がしっかりと検討して決定していかねばなりません。また今回の例は、これから開始する新規プロジェクトの選定についての例ですが、実際のビジネスでは既に開始しているプロジェクトの見直しや中止の判断も必要となります。
ただ、生成AIを活用できるところは少しでも積極的に活用していければと思っております。皆さんも是非いろいろな局面で試してみていただければと思います。この記事が、少しでも皆さんのご参考になれば幸いです。
以上、長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
追記:この記事でご紹介した、プロジェクトの選定や優先順位づけは、「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」における手法になります。「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」については他の記事や書籍で解説しておりますので、ご興味のある方は是非あわせて読んでいただければ幸いです。

