プロジェクトの成功を阻害する要因を考える
プロジェクトの成功率について、少し前の記事ですが、日経コンピュータの記事によると、プロジェクト成功率は52.8%とあります。(出典:日経コンピュータ2018年3月1日号 特集記事)ここ最近の明確なデータはありませんが、プロジェクトマネジメント手法の発展やプロジェクトマネジメントの知識と経験を保持する人が増加していますので、更に成功率が高まっていることは間違いありません。
ただ、依然として一定の割合でプロジェクトが失敗に終わる状況があることは事実です。プロジェクトが必ずしも成功しない理由としては企業組織によって様々ですが、ある程度共通した原因としては主に以下があるといわれています。
(1) プロジェクトが複雑化している
(2) プロジェクトの目標(成果)が経営戦略とずれている
(3) 組織のプロジェクトへの支援が十分ではない
プロジェクトが成功しない要因を考える
(1) プロジェクトが複雑化している
近年、プロジェクトマネジメント手法は、世界標準となっているPMBOK®︎(Project Management Body Of Knowledge)が日本にもかなり浸透しており、プロジェクトマネジメントの専門知識と経験を持った有資格者である米国PMIが認定するProject Management Professional (PMP)®︎も日本国内に約45,000人おり(2024年4月末現在、PMI Certification Registryより調査した結果)、また組織内にPMO(Project Management Office)を設置し、プロジェクトの手法の均一化や進捗をレビューしプロジェクトを支援することに力を入れている企業も多く、プロジェクトの実行能力は飛躍的に向上している状況といえます。
プロジェクト単体のQCDと言われる指標(品質、コスト、納期)を計画通りに達成する精度は高まっています。ただプロジェクトも規模が大きくなり複雑化する傾向にあります。また、複数のプロジェクトを同時並行的に実行するケースもあります。相互に依存関係があるプロジェクトでは、一つのプロジェクトに何らかの問題が発生すると他のプロジェクトにも影響が出て、計画通りプロジェクトが進まない状況に陥ることが少なからずあります。
このようなケースでは単体のプロジェクトをマネジメントするだけでは、プロジェクトがうまくいかないことになります。
日本におけるプロジェクトマネージャーはそれなりに経験豊富な方も多く、このような複雑なプロジェクトも難なくこなしている方もいると認識していますが、
ある程度体系的な手法によって、成功率を高めていくことが必要だと思います。
海外では、複数のプロジェクトを束ねて成果を出す「プログラムマネジメント」という手法が浸透しておりますが、日本では未だ導入している企業は少なく、日本でも積極的に取り入れてプロジェクトの成功率を高めて、成果を確実にあげていく必要があると考えます。
(2) プロジェクトの目標が経営戦略とずれている
企業組織では多くのプロジェクトを実行している状況です。
それぞれのプロジェクトではプロジェクトの初期の段階で目的や目標を設定し、
計画を立て実行フェーズに入っていくわけですが、そもそもプロジェクトの目的や目標が、企業の戦略や経営計画にそったものになっていない場合はどのような状況に陥ると想像できますでしょうか。
プロジェクトの入口から間違った方向に向かってコストや労力を費やすことになりますので、設定したQCD(品質、コスト、納期)の目標を達成したとしても、無駄に終わることになり、経営側の観点では大きな損失になります。プロジェクト関係者にとってもプロジェクトの目標を達成したにも関わらず、企業組織に貢献できていない結果となります。
またプロジェクトの初期の段階でプロジェクトの目的や目標を正しく設定していたとしても、プロジェクト途中で企業組織の戦略や経営計画の変更が発生した場合はどうでしょうか。
本来であればプロジェクトの目的や目標も途中で何らかの変更が必要となりますが、見直しをせずに当初の設定のまま実行し完了した場合も同じように無駄に終わってしまいます。
いや決してそんなことはあり得ないと思われる方も多いかもしれませんが、実際には少なからず発生しています。
プロジェクトマネジメント協会(PMI)がグローバルレベルで2017年に実施した調査に、プロジェクトが失敗した主な原因の調査結果があります。
「プロジェクトのビジョンやゴール設定が不適切」と回答した人が30%(3,234の回答者の内)、「組織の優先順位が変更になったこと」と回答した人が41%(同)という結果となっています。(出典:PMI’s PULSE of the PROFESSION 9thGlobal Project Management Survey)
日本においてはどうでしょうか。
近年ほとんどの日本企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを実施していますが、この一大プロジェクトの目的が不明確ということはないでしょうか。何のために実施しているのか、そのゴールは何かということが明確になっていて、目的・目標が企業の戦略と整合している必要があります。
情報処理推進機構(IPA)が2023年2月に公開した「DX白書2023」のアンケート調査結果(2022年6月〜7月に実施した調査で、対象は日本企業543社、米国企業386社)によりますと、
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html
DXに取り組んでいる企業の内「全社戦略に基づきDXに取組んでいる」、「全社戦略に基づき一部の部門においてDXに取組んでいる」と回答した割合の合計は、日本企業で54.2%(米国企業より13.9ポイント低い)という結果になっています。(出典:情報処理推進機構 DX白書2023)
言い換えれば45%近くの日本企業は戦略と整合していないDXプロジェクトを実施しているということになります。
DXプロジェクトが成功し、DXの変革という本来の目的、単にデジタル化ということではなくデジタル化による事業変革へ向け成果が出ることが日本企業の発展につながると期待しますが、米国企業との差がこのアンケート調査にも現れている気がいたします。
(3) 組織のプロジェクトへの支援が十分ではない
プロジェクトの数が急激に増加している状況下で、企業の経営層からのプロジェクトへのサポートが十分に得られない場合、プロジェクトマネージャーなどプロジェクトを実行する側としてはプロジェクトを計画通り成功させることは非常に困難になります。
プロジェクトへのサポートの主なものとしてはリソース(人、資金など)の支援になりますが、実際にはよくある話だと思いますが、人手不足が継続し、限られた優秀な人材がいくつものプロジェクトを掛け持ちするなど、非常に忙しい状態が続くなど、プロジェクトのリスクも高くなりプロジェクトが失敗に終わることもあります。
前述のプロジェクトマネジメント協会(PMI)が実施した調査のプロジェクトが失敗した主な原因で、「スポンサーのサポートが不十分」と回答した人が27%、「リソースが限られていること」と回答した人が22%という結果がでています。(出典:PMI’s PULSE of the PROFESSION 9th Global Project Management Survey)
では何故、経営層からのプロジェクトへのサポートが不十分になるのでしょうか。私はその大きな要因は、旧態依然の組織の考え方にあると考えています。
特に日本企業では従来のオペレーション(定常業務)が主で、プロジェクトは一時的という考え方に基づく組織形態になっていることが多いのではないでしょうか。
部門横断型プロジェクトのケースでは、プロジェクトマネージャーが一時的に専任でアサインされ、プロジェクトメンバーは各部門から数名ずつアサインされるというマトリクス型の形態になります。
また、部門内プロジェクトのケースでは、所属部門内でプロジェクトマネージャーとプロジェクトメンバーがアサインされ、この場合は部門のオペレーション(定常業務)と兼任することが多いと思います。
両ケースともプロジェクトメンバーは部門とプロジェクトの両方から指示を受けて業務を実施することになります。ただメンバーの管理の主は部門側にある状況で、プロジェクトメンバーの負荷状況の管理(残業等)については、おそらく部門のマネージャーが主導して実施するのではないでしょうか。また、中長期的な人材管理の観点(人材育成、評価、キャリアプランなど)では部門のマネージャーが責任を負い、人事的な権限も部門のマネージャーが持つことが多いと思います。
このようにプロジェクトを実行する組織の場合でもオペレーション部門が中心となりますので、経営層のプロジェクトへの関心が低くなりがちで、経営や部門側のプロジェクトへの十分な支援ができていないケースがあると考えます。
これまでのやり方が決して間違っているというわけではなく、プロジェクトが一時的(暫定的)で全体業務において占める割合が低い状況であれば、これまでと同様の考え方で大きな問題はないかもしれませんが、プロジェクトの数が急激に増えプロジェクトエコノミーの到来という状況では、これまでの考え方や組織形態も変更していくことが求められるのではと思います。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントを取り入れる
以上、プロジェクトが成功しない要因を考察してみましが、これらの対策としては、プロジェクト・ポートフォリオマネジメント(およびプログラムマネジメント)を取り入れることが良いと私は考えています。
目まぐるしい外部環境の変化が発生する状況のなか、企業組織はビジネスの維持と更なる発展へ向けて、経営戦略に基づき、従来のオペレーションに加え多くのプロジェクトを実行しています。プロジェクトの数が急激に増え、時代はプロジェクトエコノミーに突入していきます。経営戦略の実践においては、プロジェクトが失敗する主な要因をしっかりと把握して、経営戦略に基づく正しいプロジェクト見極めて、それらプロジェクトへ確実な支援を実施し、プロジェクトを成功に導くことが必須となります。これをすすめていくための有用なマネジメント手法が「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」です。
海外では既に浸透しており、欧米をはじめ最近ではインド、中国、中東各国も含め取り入れる企業が増え、プロジェクトを重要な戦略実践のアクションと考え、プロジェクト中心の考え方にシフトしはじめています。
日本でも少しずつ普及しはじめておりますが、未だ少ない状況です。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントについては、拙著「プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの教科書」に詳細を記載しておりますので、是非お読みいただけると幸いです。
以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。