皆さんの企業・組織では、プロジェクトの目標や計画を途中で見直したり、プロジェクトを途中で中止したりすることはありますでしょうか?
近年は、外部環境(内部環境)の変化が激しく、当初立てた計画どおりに実施し無事完了したとしてもプロジェクトの成果が得られないということは少なからず発生します。限られたリソースをプロジェクトに投入したにも関わらずプロジェクト関係者の相当な努力が無駄に終わってしまい、プロジェクトがビジネスの成長に貢献するどころかコスト増加要因となってしまうというような最悪の結果だけは避けなければなりません。
こういった状況に陥らないために、どのように実施していけば良いのかについて、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの観点で、本記事に記載しています。企業・組織の状況によって異なるかとは思いますが、ご参考にしていただければ幸いです。
目次
近年の状況
近年、皆さんご承知の通り、ビジネスにおける外部環境や内部環境は常に変化しております。長引く紛争、感染症の世界的な流行、サーバーセキュリティの脅威、これらに伴う半導体の枯渇、物価高騰、不況、為替変動、自然災害など、まさに様々な外部環境の変化が発生し、企業・組織においてはこれらの変化に対応するために様々な対応をとっていることかと思います。
また、これらの状況においても、ビジネスを継続的に維持・成長させていくために、既存ビジネスの維持・発展や成長分野への参入(新規ビジネスへの取り組み)など、定常業務に加えて多くの様々なプロジェクトを実行しておられる状況ではないでしょうか。
近年では、これらの変化が継続的に発生し(状況が変化するスピードも非常に早く)、数年であっという間に状況が一変してしまうことも良くある話です。このような中、変化に応じて、必要なプロジェクトを選定することはもちろんのこと、実行しているプロジェクトの見直しや中止を迅速に判断することが求められてきております。
プロジェクトの見直しや中止を実施していますか?
私は(セミナーの講師をつとめさせていただいた際など)、大手企業の方やコンサルタントの方などと会話する機会が多いですが、プロジェクトを開始した後に、プロジェクトの見直しや中止を実施することはあまり無いとおっしゃる方が比較的多いと感じています。鳴物入りで開始したプロジェクトは尚更で、どのような状況であろうとも完了させることが必須といった状況をご経験されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。皆さんの企業・組織においてはいかがでしょうか?
プロジェクト開始時の計画や目標が、時を経過するにつれ、適切ではなくなることは少なからずあります。これは企業・組織の戦略が、外部環境や内部環境の変化に応じて変更した場合など、プロジェクトの当初の目標が戦略の変更にそぐわない状況に陥るといったことがあります。
多くの日本企業では、経営戦略にそった3年〜5年の中期経営計画を策定されていますが、この中期経営計画も多くの企業において途中で変更されています。以下は私の方で調査したデータになります。
プロジェクトは、企業・組織の経営戦略や中期経営計画に整合したもので、プロジェクトの成果が経営指標に貢献することが理想ですが、このように中期経営計画が途中で変更となった場合は、プロジェクトの目標なども見直して変更する必要があります。また場合によっては中期経営計画に整合しなくなったプロジェクトは中止せざるを得ない状況も発生します。
プロジェクトの見直し・中止を判断する
最近のプロジェクトは大規模で複雑化し不確実性が高いものが多くなってきておりますので、プロジェクトが順調に進捗せず、計画通りの成果も見込めない状況になることがあると思います。その要因は様々だと思いますが、私は外部環境や内部環境の変化に起因することが多いと感じています。
良く聞く話…
そういった場合に、プロジェクト側に問題(責任)があると言われたことはありませんでしょうか? 以下は、少し極端な表現かもしれませんが、講師などの活動を通じて実際に聞いた話をもとに記載したものです。
これらは、プロジェクトレベルの問題ではなく、企業レベルの問題であるといえます。企業・組織のレベルでしっかりと判断を実施していかねばなりません。
プロジェクトの見直し・中止を判断するプロセス
企業・組織レベルで、プロジェクトの見直しや中止を判断するプロセスの確立が必要になっております。
以下の図は、プロジェクトの戦略整合をチェックするなどのガバナンスを確立し、プロジェクトの見直しや中止を判断するプロセスの例を示したものです。
これは、プロジェクト・ポートフォリオマネジメントを実践する場合の組織・プロセスの例で、EPMO(Enterprise Project Management Office)を組織化して実施するかたちになります。
EPMOを組織化して判断する
企業・組織において多くのプロジェクトを実践する場合には、EPMOの機能を保持する必要性が出てきます。(以下は既存のオペレーション組織にEPMOを組み込んだ場合の例)
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントについて
以上、プロジェクトの見直し・中止などを判断するプロセスや組織について記載しました。これらはプロジェクト・ポートフォリオマネジメントにおける、ガバナンスや、戦略に整合したプロジェクトの取捨選択や優先順位付の考え方によるものです。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントはグローバル標準であり、欧米だけではなく近年では中国や中東各国でも普及しております。企業組織の戦略と整合したプロジェクトの取捨選択や優先順位付けを実施していくものであり、近年のプロジェクトが増加している状況下では非常に有用なマネジメント手法になります。
この内容についての解説はここでは割愛させて頂きますが、世界最大のプロジェクトマネジメントの団体である、Project Management Institute(PMI)が”The Standard For Portfolio Management(ポートフォリオマネジメント標準)”を発行しており、原則や体系的アプローチなどについての記載があります(日本語訳版も発行されております)。
また、私の方で昨年2023年9月に「プロジェクト・ポートフォリオマネジメントの教科書」(太陽出版)を発刊しました。実践手法などを含め解説しております。
プロジェクト・ポートフォリオマネジメントについては、これらの書籍をお読みいただければ理解が深まると思いますので、ご興味ある方は是非お手にとっていただければ幸いです。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。